京都大学大学院医学研究科環境衛生学分野

京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻環境衛生学分野

環境衛生学へようこそ

「衛生学」は「生をまもる」学問という意味で作られたものですが、学問的な歴史は感染症学に由来します。 「Hygieneは感染症制御の学問である」としたのはドイツに源泉があり、結核菌の発見者で知られるRobert Koch氏がベルリン大学医学部衛生学(Medizin und Hygiene an der Medizinischen Fakultaet der Berliner Universitaet)の初代教授を務めたことが近代のHygieneのはじまりです。19世紀後半から20世紀前半の予防医学とはほとんど感染症制御を指すようなものでしたから、衛生学は感染症の発見および制御とともに学問的な発展を遂げたのですよね。その後、第2次世界大戦後を中心として、環境医学や産業保健における貢献も時代とともに変化を続けました。高度経済成長に伴う産業形態の変化や公害問題などを契機として、化学物質や毒性学、更にその後は遺伝学や実験医学の一部も衛生学の範疇となっていきました。ですから、衛生学はとても網羅的な学問なのですが、第2次世界大戦後に日本国内で拡大した公衆衛生の健康増進という概念と対比させるとすれば、公衆衛生学は主に内的要因・生活習慣と健康・疾病の問題を扱うのに対し、衛生学は主に環境・外的要因に着目した健康と疾病の問題を取り扱うものとも言えます(ただし、それを区別する意味合いは余り大きくないこともあり、多くの場合においてオーバーラップが多くて境界は不明確です)。現代の日常生活では、単に「清潔な」という意味合いでも「衛生」という語が用いられていますね(例えば「手指衛生」とか「水衛生」なんて、そういう意味で捉えますよね)。現代的な意味では公衆衛生学と衛生学という分類では関連領域は分類し切れないくらいまでになっており、学問の守備範囲は他と同様、継続して多様化を続けています。


京大の衛生学

そのような中、京都大学大学院医学研究科の環境衛生学分野では感染症を対象に研究と教育に取り組んでいます。日本では医学部の教室単位はとても小さくて、教授1人に准教授1人、助教2人というサイズ(プラス有期で雇用されるポスドクや大学院生)から成る小講座制度で運営するのが基本です。京都大学の社 会健康医学系専攻ではそれよりも小さいサイズで運営をしています。そのため、教室はcommon threadを「感染症」に据えた専門家集団にした上で運営しています。環境医学のニーズに応えることも重要ですので、研究面では主に感染症と関連する点 に絞って取り組み、教育面で学部や修士課程の環境医学を担当しています。感染症研究では、数理モデルおよび統計モデルを利用した感染症自然史等の推定や感 染ダイナミクスの解明、流行対策の評価および流行予測の実現などを細目分野として、感染症の理論疫学(数理疫学)に取り組んでいます(詳しく知りたい方は研究紹介をご覧ください)。もちろん、数理モデルを利用しない感染症研究として、フィールド疫学やアウトブレイク調査、サーベイランスにも取り組んでいますし、数理モデルの別分野として人口学に関連するモデリング研究(現時点では死因構造のみ)に着手しはじめています。また、前体制を引き継ぐ原田先生は放射能の健康影響を含め、環境医学のプロとして毒性学的評価や環境リスク評価の研究を行っています。

何をやっていて、何を誇っているのか

ここは若者の多い教室です。そのため、経験は限られていますが、技術面で他を圧倒できる専門家集団の輩出を心掛けています。 感染症疫学や理論疫学に特化したマニアックなメンバーで構成し、新興・再興感染症の発生時における流行動態の把握や必要とされる流行対策の策定に貢献する研究はもちろんのこと、ワクチン予防可能疾患や顧みられない熱帯病(NTDs)なども含めて、感染症専門家として世界と地域の両レベルで頼りになる専門家が当教室から生み出されつつあります。例えば、インフルエンザ、エボラ出血熱、中東呼吸器症候群(MERS)、ジカ熱などの新興再興感染症流行時の感染性の推定や2次感染リスクの特定、今後の輸入リスクの推定や流行予測の実施など大規模生物情報を活用した流行モデリングや数理モデル研究成果の感染症対策政策での実装を中心に研究に取り組んでいます。時々、突然に自宅に帰れないような流行イベントや時事的研究があるので大変エキサイティングな現場である一方、一定のストレスに対峙する精神力と連日の徹夜や激務に立ち向かえる体力を誇る生き生きとしたグループです。

未来に見据えていること

これまで、日本の感染症疫学は極めて脆弱な状況にありました。第2次世界大戦直後20年の間は国内に理論疫学研究のグループが片手に収まる数であるものの確実に存在しました。しかし、現在において、医学部に同専門を中心的課題として掲げる教室は私たちが知る限り自身らだけです。国内での新興再興感染症の発生時に仮に流行制御などができたとしても、適切なデザインの下でデータを収集・分析して国際的学術誌に速やかに報告する専門研究体制が必要です。現在の状況を一夜で変えることはできませんが、疫学全体でなく感染症疫学の高度な部分に改善点を限ることによって、短期間で国際第一線へのキャッチアップは可能な状況にあります。この数年での教室の目標設定は、多くの欧州・米国の公衆衛生大学院の競合研究チームと比較して、こちらでトレーニングいただいたほうが体系的で良質かつ大量の研究経験を詰める体制を維持しようとしています(既に中途半端な場所よりも良い業績を出せる見込みで動いていますが、ボストンとロンドンにある大手には研究面だけでも負けない体制を敷こうとしています)。それは十分に可能な状況にあり、当分野で良い経験を経た専門家が国・地域と世界を支える人材として羽ばたけるよう教育と研究トレーニングに 尽力しています。この教室は「来るもの拒まず」の方針ですから、他所属のある方も受け入れをしています(詳細は研究指導に関するページを参照)。2016年に北の大地で開始した試みは、2020年に京都へと場所を移し、新型コロナウイルス感染症対策の中で新たに脱皮することさえを求められています。京の都では、新しい感染症疫学が始まっています。ぜひご連絡・お立ち寄りを下さいますようお待ちしていますね。

VictoriaToPeak2019を走る西浦さん

連絡先

京都大学大学院医学研究科
社会健康医学系専攻
環境衛生学分野
606-8501 京都市左京区吉田近衛町
TEL:075-753-4456
FAX:075-753-4458
E-mail: conatct(at)hyg.med.kyoto-u.ac.jp